第106回
106PM055|第106回 助産師国家試験 過去問
次の文を読み55の問いに答えよ。Aさん(32歳、初産婦)は妊娠12週0日で妊娠の診断を受けた。身長155 cm、体重70 kg(非妊時体重68 kg)、血圧120/80 mmHg、血液検査データは随時血糖85 mg/dL、HbA1c 5.5%であった。その後、妊婦健康診査を受診せず、妊娠33週0日で来院した。来院時、体重82 kg、血圧130/80 mmHg、尿蛋白(-)、尿糖2 +、子宮底長35 cm、推定胎児体重2,600 g、AFIは23 cmであった。このときのAさんの状態のアセスメントで正しいのはどれか。
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正解3
正答
3.耐糖能検査が必要である。
この問題のポイント
妊婦健康診査を長く受けていなかった肥満の妊婦について、妊娠33週の所見から何を疑い、どの評価が必要かを判断する問題です。非妊時の肥満と妊娠中の過剰な体重増加は、妊娠糖尿病の危険因子です。尿糖2+、週数に比べて大きい子宮底長と推定胎児体重、上限に近いAFIは、母体の高血糖で説明できる所見です(胎児の高インスリン血症による過剰発育、胎児の浸透圧利尿による羊水の増加)。妊娠初期の血糖が正常でも、妊娠中期以降に妊娠糖尿病を発症しうると理解しているかが鍵です。
解説
情報の整理
- 体格:非妊時BMIは 68÷(1.55×1.55)≒ 28.3 で、肥満(1度:BMI 25以上30未満)にあたります。
- 体重増加:非妊時から14 kg増えています。妊娠12週から33週までの21週間では12 kgで、1週あたり約0.57 kgです。
- 妊娠初期の糖代謝:随時血糖85 mg/dL、HbA1c 5.5%で、正常範囲です。
- 受診歴:12週以降は未受診のため、妊娠中期(24〜28週)の妊娠糖尿病スクリーニングを受けていません。
- 33週の所見:血圧130/80 mmHg、尿蛋白(-)、尿糖2+、子宮底長35 cm、推定胎児体重2,600 g、AFI 23 cmです。
体重増加の評価
出題当時の目安は、2021年に日本産科婦人科学会が示したものです。厚生労働省「妊娠前からはじめる妊産婦のための食生活指針」にも採用されています。妊娠全期間の体重増加の目安は、BMI 25以上30未満では7〜10 kgです。Aさんは妊娠33週の時点ですでに14 kg増えており、明らかに過剰です。肥満や妊娠中の過剰な体重増加は、妊娠糖尿病や妊娠高血圧症候群のリスクを高めます。
子宮・胎児・羊水の評価
子宮底長35 cmは、妊娠9か月末の目安(30 cm前後)を超えています。子宮底長は胎児の大きさや羊水量を反映します。ただし腹壁の脂肪にも左右されるため、単独では判断しにくく、推定胎児体重とあわせて評価します。推定胎児体重2,600 gは、妊娠33週の胎児体重基準値を大きく上回っています。胎児は週数の割に大きい(LGA傾向)と考えられます。
羊水過多の基準は、AFI 24 cm以上(25 cm以上とする基準もあります)または最大羊水深度8 cm以上です。AFI 23 cmはまだこの基準に達していません。しかし正常範囲の上限に近い値で、羊水量は多めです。
妊娠と糖代謝
妊娠中期以降は、ヒト胎盤性ラクトーゲン(hPL)、プロゲステロン、コルチゾールなどの作用でインスリン抵抗性が強まります。通常は膵臓からのインスリン分泌が増えて、血糖が保たれます。この代償が追いつかないと妊娠糖尿病になります。そのため、初期の検査が正常でも発症は否定できません。日本では次のようにスクリーニングを行います。
- 妊娠初期に随時血糖を測定します。
- 妊娠中期(24〜28週)に、50 gグルコースチャレンジテスト(GCT)または随時血糖を測定します。
- いずれかで陽性であれば、75 gOGTT(経口ブドウ糖負荷試験)で診断します。
母体のブドウ糖は胎盤を通過しますが、インスリンは通過しません。母体が高血糖になると胎児も高血糖になり、胎児の膵臓がインスリンを過剰に分泌します。この高インスリン血症が成長を促すため、巨大児になりやすくなります。また、胎児の高血糖による浸透圧利尿で胎児尿が増え、羊水過多になりやすくなります。Aさんの胎児の大きさと羊水量の増加は、この機序で説明できます。
尿糖の解釈には注意が必要です。妊娠中は糸球体濾過量が増え、尿細管でのブドウ糖の再吸収が追いつきにくくなります。そのため、血糖が正常でも尿糖が出ることがあります(生理的尿糖)。尿糖だけでは診断できないので、血糖値に基づく耐糖能検査が必要です。
75 gOGTTの基準は、空腹時92 mg/dL以上、1時間値180 mg/dL以上、2時間値153 mg/dL以上です。このうち1点以上を満たせば、妊娠糖尿病と診断します。空腹時血糖126 mg/dL以上やHbA1c 6.5%以上などを満たす場合は、「妊娠中の明らかな糖尿病」として区別します。
判断と実践への結びつけ
Aさんには、危険因子(肥満、過剰な体重増加)があります。さらに、高血糖を示唆する所見(尿糖、胎児の過大傾向、羊水量の増加)がそろっています。しかも、中期のスクリーニングを受けていません。したがって、耐糖能検査(75 gOGTT)で糖代謝を評価することが、最も妥当なアセスメントです。
妊娠糖尿病と診断されれば、分割食を中心とした食事療法と血糖自己測定を行い、必要に応じてインスリンを使います。分娩時は肩甲難産に、出生後は新生児低血糖などに備えます。助産師としては、未受診の背景(経済的・心理的な事情など)を丁寧に聴き、今後の妊婦健康診査につなげることも重要な支援です。
選択肢の確認
1.塩分制限が必要である。:血圧130/80 mmHgは、妊娠高血圧症候群の基準(収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上)に達していません。尿蛋白も陰性で、塩分制限を必要とする病態はありません。妊娠高血圧症候群であっても、循環血漿量が減っている病態のため、極端な塩分制限は勧められず、適度な減塩にとどめます。Aさんの体重増加は、塩分よりもエネルギー摂取と糖代謝の観点から評価すべき所見です。ただし、肥満は妊娠高血圧症候群の危険因子でもあるため、血圧と尿蛋白の経過観察は続けます。
2.羊水検査が必要である。:羊水検査は、経腹的に子宮内へ針を刺して羊水を採取する検査で、破水や感染などのリスクを伴う侵襲的な検査です。主な目的は、胎児の染色体検査(通常は妊娠15週以降に実施)や胎児感染の診断です。Aさんには、染色体異常や胎内感染を疑わせる情報がありません。羊水量が多めであることも、それだけでは羊水検査の適応になりません。仮に羊水過多と診断された場合も、まず行うのは超音波による胎児形態(消化管閉鎖など)の評価と、母体の糖代謝の確認です。なお、症状の強い羊水過多に対して行う羊水除去は治療であり、検査とは目的が異なります。
3.耐糖能検査が必要である。:正答。Aさんには、非妊時の肥満と過剰な体重増加という妊娠糖尿病の危険因子があります。さらに、尿糖2+、週数に比べて大きい胎児、上限に近いAFIという、母体の高血糖を示唆する所見もあります。妊娠初期の血糖値は正常でしたが、インスリン抵抗性が強まる中期以降のスクリーニングを受けていません。そのため、75 gOGTTで妊娠糖尿病の有無を評価する必要があります。妊娠33週でも、診断して血糖を管理すれば、巨大児や肩甲難産、新生児低血糖などのリスクの軽減が期待できます。
4.腟分泌物の細菌培養検査が必要である。:この検査が必要になるのは、帯下の異常、発熱、切迫早産、前期破水などで、腟や子宮内の感染を疑う場合です。B群溶血性レンサ球菌(GBS)のスクリーニングを行う場合にも必要になります。Aさんには、感染を疑わせる所見が示されていません。尿糖、胎児の過大傾向、羊水量の増加は、感染ではなく糖代謝の異常を疑う手がかりです。GBSスクリーニングは、所見の有無にかかわらず妊娠後期のすべての妊婦に行う定期の検査です。未受診だったAさんにも妊婦健康診査の中で実施しますが、今回の所見から導かれる状態のアセスメントとは別のものです。
覚えるポイント
- 妊娠中期以降は、胎盤由来のホルモン(hPLなど)によってインスリン抵抗性が強まります。そのため、初期の血糖が正常でも24〜28週のスクリーニングが必要です。
- 妊娠糖尿病は75 gOGTTで診断します。空腹時92・1時間180・2時間153 mg/dL以上のうち、1点以上を満たせば妊娠糖尿病です。
- 妊娠糖尿病を疑う手がかりは、危険因子(肥満、過剰な体重増加など)と、高血糖の影響を示す所見(尿糖、羊水過多、巨大児傾向)に分けて整理します。尿糖は生理的にも出るため、単独では診断しません。
- 体重増加の目安(2021年〜)は、BMI 18.5未満で12〜15 kg、18.5以上25未満で10〜13 kg、25以上30未満で7〜10 kgです。30以上は個別対応(上限5 kgまでが目安)です。
- 羊水過多は、AFI 24 cm以上(25 cm以上とする基準もあります)または最大羊水深度8 cm以上です。羊水過少は、AFI 5 cm以下または最大羊水深度2 cm以下です。
- 妊娠高血圧症候群の高血圧は、収縮期140 mmHg以上または拡張期90 mmHg以上です。循環血漿量が減る病態のため、塩分は極端に制限しません。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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