第106回
106PM028|第106回 助産師国家試験 過去問
硬膜外麻酔を用いた無痛分娩で正しいのはどれか。2つ選べ。
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正解2・4
正答
2.分娩第2期の所要時間が延長する。
4.麻酔薬の投与開始後30分間は頻回に血圧を測定する。
この問題のポイント
硬膜外麻酔による無痛分娩(硬膜外鎮痛)が、母体の循環、分娩経過、新生児にどう影響するかを問う問題です。判断の鍵は、局所麻酔薬が痛覚の神経だけでなく交感神経と運動神経も遮断するという作用です。ここから、投与開始直後の低血圧と分娩第2期の延長を説明できます。あわせて、くも膜下腔への誤注入と血管内への誤注入で現れる症状を区別できるかも問われています。
解説
硬膜外鎮痛のしくみ
腰部の硬膜外腔にカテーテルを留置し、低濃度の局所麻酔薬を注入します。多くはオピオイドを併用し、持続または間欠的に投与します。分娩痛は時期によって経路が異なります。
- 分娩第1期:子宮収縮と子宮頸部の開大による内臓痛で、T10〜L1の脊髄に入ります。
- 分娩第2期:産道と会陰の伸展による体性痛が加わり、陰部神経(S2〜S4)を介して伝わります。
局所麻酔薬は細い神経線維ほど遮断しやすく、一般に「交感神経>痛覚・温度覚>運動神経」の順に効きます。低濃度の薬液を使うのは、運動機能をなるべく保ったまま痛みだけを取るためです。ただし、鎮痛に必要な量でも交感神経の遮断は避けられません。
低血圧と導入直後の観察
交感神経が遮断されると、下半身の血管が拡張して血液が末梢にたまります。その結果、静脈還流と心拍出量が減って血圧が下がります。仰臥位では妊娠子宮による大動静脈の圧迫が加わり、さらに下がりやすくなります。子宮胎盤の血流は自己調節が乏しく母体血圧に依存するため、母体の低血圧は胎児の徐脈や遅発一過性徐脈につながります。
低血圧は投与開始後や追加投与後の早い時期に起こりやすいため、この時期は次のように観察と対応を行います。
- 開始後およそ30分間は血圧を頻回に測定し、胎児心拍数は連続で監視します。
- 冷感試験で鎮痛の範囲(高さ)を、下肢の動きで運動神経遮断の程度を確認します。
- 低血圧時は仰臥位を避けて左側臥位(または子宮の左方転位)にし、医師の指示で輸液や昇圧薬を用います。
分娩経過への影響
分娩第2期が長くなる理由は3つあります。
- 児頭による骨盤底の圧迫で生じる努責感が弱まり、有効な努責をかけにくくなります。
- 骨盤底筋が弛緩し、児頭の内回旋が進みにくくなります(後方後頭位が持続しやすくなります)。
- 運動神経遮断が強いと、腹圧も十分にかけられません。
このため吸引・鉗子分娩の頻度が高くなり、陣痛促進薬を使う機会も増えます。一方、第1期への影響は報告が一定しません。帝王切開率がはっきり上がるという根拠も乏しいとされています。
助産師は、第2期が延びることを前提に児の健常性を確認しながら経過を判断します。努責感が弱いため、触診や分娩監視装置で子宮収縮を確かめて努責のタイミングを誘導します。尿意も感じにくく、膀胱の充満が児頭の下降を妨げるため、定期的に導尿します。このほか、母体の発熱、搔痒感(オピオイドによる)、シバリングもよくみられる副作用です。
重大な合併症の見分け方
重大な合併症のうち、最も区別が重要なのは誤注入の部位です。
- くも膜下腔への注入:硬膜外用の量はくも膜下腔には多すぎるため、急速に広がる強い遮断が起こります。下肢がまったく動かない、急な血圧低下と徐脈、呼吸困難、発声困難、意識消失へと進み、全脊髄くも膜下麻酔では呼吸停止に至ります。
- 血管内への注入:局所麻酔薬中毒が起こります。口周囲のしびれ、金属味、耳鳴り、めまい、興奮から、けいれん、意識消失、不整脈、心停止へと進みます。治療には気道確保と脂肪乳剤の投与が用いられます。
カテーテルは留置後にも移動することがあります。このため、投与のたびに吸引試験やテストドーズで位置を確認します。また、カテーテル抜去後に背部痛と下肢の筋力低下が現れた場合は、硬膜外血腫や膿瘍を疑います。
適応と禁忌
高血圧は禁忌ではありません。痛みによるカテコールアミンの分泌と血圧上昇を抑えられるため、妊娠高血圧症候群ではむしろ有用とされます。緊急帝王切開になった場合も、そのまま硬膜外麻酔へ移行できる利点があります。
禁忌は次のとおりです。
- 本人の拒否
- 凝固異常や抗凝固薬の使用、血小板減少(HELLP症候群では特に注意します)
- 穿刺部位の感染や敗血症
- 大量出血など是正されていない循環血液量減少
- 頭蓋内圧亢進
選択肢の確認
1.血圧の高い産婦には禁忌である。:高血圧は硬膜外鎮痛の禁忌には含まれません。痛みによる血圧上昇を抑えられるため、妊娠高血圧症候群ではむしろ有用とされます。禁忌となるのは凝固異常、血小板減少、穿刺部位の感染、是正されていない循環血液量減少、本人の拒否などです。妊娠高血圧症候群でも、HELLP症候群で血小板が減っていれば硬膜外血腫の危険から実施できないことがあります。これを「高血圧が禁忌」と取り違えないようにします。
2.分娩第2期の所要時間が延長する。:正答。努責感の減弱、骨盤底筋の弛緩による児頭の内回旋の障害、運動神経遮断による腹圧の低下が重なり、第2期が長くなります。器械分娩も増えるため、児の状態を確認しながら努責を誘導することが大切です。
3.出生児のApgar〈アプガー〉スコアが低くなる。:硬膜外腔に投与する局所麻酔薬とオピオイドは低濃度で少量です。胎児への移行によって新生児の呼吸や筋緊張を抑えるほどの量にはならず、適切に管理された無痛分娩でアプガースコアが低下するという根拠はありません。ただし、母体の低血圧を放置すると胎児機能不全を招くことがあります。また、ペチジンなどオピオイドの全身投与や全身麻酔では新生児の呼吸抑制が起こり得ます。これらと区別して覚えます。
4.麻酔薬の投与開始後30分間は頻回に血圧を測定する。:正答。交感神経の遮断による低血圧は投与開始直後に起こりやすく、子宮胎盤の血流を減らして胎児の徐脈につながります。この時期は血圧を頻回に測定し、胎児心拍数を連続で監視します。低下すれば体位の調整、輸液、昇圧薬で速やかに対応します。追加投与の後も同様に観察します。
5.下肢が動かない時は血管内に誤って注入した可能性がある。:下肢がまったく動かなくなるほど強い運動神経遮断は、薬液がくも膜下腔に入ったことを疑う所見です。急な血圧低下、呼吸困難、意識障害へ進むおそれがあります。血管内への誤注入で起こるのは局所麻酔薬中毒で、口周囲のしびれ、金属味、耳鳴り、けいれん、不整脈が現れます。両者の症状を入れ替えた記述なので正しくありません。
覚えるポイント
- 硬膜外鎮痛の主な副作用は、交感神経遮断による低血圧です。投与開始後や追加投与後の約30分間は血圧を頻回に測り、胎児心拍数を連続で監視します。
- 低血圧時の対応は、仰臥位を避けて左側臥位や子宮の左方転位にし、輸液と昇圧薬(医師の指示)を用いることです。
- 分娩第2期は延長し、器械分娩が増えます。原因は努責感の減弱、骨盤底筋の弛緩による内回旋の障害、腹圧の低下です。
- 誤注入の見分け方は、「下肢が動かない、急な低血圧、呼吸困難」ならくも膜下腔、「口周囲のしびれ、耳鳴り、けいれん、不整脈」なら血管内(局所麻酔薬中毒)です。
- 禁忌は凝固異常、血小板減少、穿刺部位の感染、循環血液量減少、本人の拒否です。高血圧は禁忌ではありません。
- 分娩痛の伝達経路は、第1期がT10〜L1、第2期が陰部神経(S2〜S4)です。
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