第108回
108AM005|第108回 保健師国家試験 過去問
Aさん(43歳、女性)は定期健康診断を毎年受けている。今年は血液検査で中性脂肪が基準値を超えており、医師から運動を勧められた。1か月後の受診日に、2週前から1日15分のジョギングを始めたことを医師に話したところ、医師は「2週間続けられたのだから、あなたならこれからもできると思います」と話した。Aさんは「はい。頑張って続けてみようと思います」と話した。Aさんの自己効力感を高めたのはどれか。
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正解3
正答
3.言語的説得
この問題のポイント
バンデューラが示した自己効力感の4つの情報源(遂行行動の達成、代理体験、言語的説得、生理的・情動的喚起)を、具体的な場面に当てはめられるかを問う問題です。手がかりは、医師が「あなたならこれからもできると思います」と言葉でAさんの能力を認めている点です。選択肢2と4は行動変容ステージモデル(トランスセオレティカルモデル)の変容プロセスの用語なので、理論の違いを見分けることも求められています。
解説
自己効力感とは
自己効力感(self-efficacy)は、バンデューラの社会的認知理論(社会的学習理論から発展)の中心となる概念です。「ある結果を得るために必要な行動を、自分はうまく実行できる」という見通しや確信を指します。バンデューラは、行動の前にもつ予期を次の2つに分けました。
- 結果予期:その行動をするとどのような結果になるかという見通しです(例:ジョギングを続ければ中性脂肪が下がるだろう)。
- 効力予期:その行動を自分が実行できるかという見通しです(例:自分はジョギングを続けられる)。
自己効力感は後者の効力予期にあたります。行動の意味を理解していても「自分にはできない」と感じていると、行動は始まらず、続きもしません。そのため保健指導では、知識を伝えるだけでなく、効力予期を高める支援が重要になります。
自己効力感を高める4つの情報源
- 遂行行動の達成(成功体験):自分で実際にやってみて、うまくいった経験です。最も強力で安定した情報源です。
- 代理体験(代理経験):自分と似た立場の他者がうまくやっている様子を見聞きして、「自分にもできそうだ」と感じることです。モデリングともいいます。
- 言語的説得:信頼できる他者から「あなたならできる」と言葉で励まされたり、能力を認められたりすることです。
- 生理的・情動的喚起:体調や気分の変化を自覚することです。運動後の爽快感や、不安が和らいだ感覚は効力感を高めます。一方、動悸や強い緊張は効力感を下げます。
言語的説得は手軽に使える方法です。ただし言葉だけでは効果が一時的になりやすく、実際の成功体験と結びつけると効果が高まるとされています。
本問の場面の整理
Aさんは健診で中性脂肪の高値を指摘され、2週前から1日15分のジョギングを始めています。2週間続けられたこと自体は遂行行動の達成です。しかし設問が問うのは、医師の働きかけによってAさんが「頑張って続けてみよう」と思えた部分です。医師はAさんの実績を根拠に挙げながら、「あなたならこれからもできると思います」と、信頼できる専門職として言葉で能力を認めています。これは言語的説得の典型です。成功体験を言葉で意味づけているため、単なる励ましよりも説得力があり、行動の継続につながりやすい関わり方だといえます。
なお行動変容ステージモデルでみると、Aさんは行動を始めて6か月未満の実行期にあたります。この時期は元の生活に戻りやすいため、成功を認めて自己効力感を支える関わりが、維持期への移行を助けます。保健師が特定保健指導や健康相談で行う「できたことを具体的に認め、言葉で返す」支援は、この原理に基づいています。
選択肢の確認
1.代理体験:他者がやり遂げる姿を見て自信を得ることを指しますが、この場面に他者のモデルは登場していません。医師が語ったのはAさん自身の2週間の実績であり、他者の成功例ではありません。同じように健診で指摘を受けた人が運動を続けて数値が改善した体験談を紹介したり、グループ指導で仲間の取り組みを見たりする場面であれば、この情報源にあたります。
2.意識の高揚:行動変容ステージモデルの変容プロセスの1つで、問題や行動変容についての情報を得て気づきを深めることを指し、自己効力感の情報源の分類ではありません。主に無関心期から関心期への移行で用いられます。例えば、中性脂肪の高値が動脈硬化のリスクになると学ぶ場面が該当します。すでに運動を始めて実行期にあるAさんへの医師の言葉とは、目的も時期も異なります。
3.言語的説得:正答。信頼できる医師が、2週間続けられたという事実を根拠にして「あなたならこれからもできる」と言葉で伝えています。Aさんはこれを受けて、継続への意欲と自信を示しました。言葉による働きかけで効力予期が高まった場面であり、4つの情報源のうちこの項目に該当します。
4.自己の再評価:これも変容プロセスの用語で、行動を変えない自分と変えた自分を思い浮かべ、自分にとっての価値を見直すことを指します。主に関心期から準備期への移行で用いられます。Aさん自身が「運動習慣のある健康な自分でありたい」と考える場面なら該当しますが、他者から言葉で能力を認められる本問の場面とは異なります。
覚えるポイント
- 自己効力感はバンデューラの社会的認知理論の概念で、「自分はその行動を実行できる」という効力予期を指します。「行動すればこうなる」という結果予期とは区別します。
- 自己効力感の4つの情報源は、遂行行動の達成、代理体験、言語的説得、生理的・情動的喚起です。最も強いのは遂行行動の達成です。
- 見分け方は、「自分でやって成功=遂行行動の達成」「他人を見る=代理体験」「言葉で認められる=言語的説得」「体や気分の変化=生理的・情動的喚起」です。
- 意識の高揚、自己の再評価、環境の再評価、自己の解放、刺激統制、強化マネジメントなどは行動変容ステージモデルの変容プロセスです。自己効力感の情報源とは別の枠組みなので、混同しないようにします。
- 言語的説得は、成功体験と組み合わせて「できた事実」を言葉で認めると効果が高まります。保健指導で行動の継続を支える基本技術です。
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