第108回
108AM006|第108回 保健師国家試験 過去問
Aさん(50歳、男性)は市の集団健康診査で空腹時血糖が140 mg/dL、ヘモグロビンA1c〈HbA1c〉が6.8%であったことから、健康診査の結果相談会に来所した。保健師が話を聞くと、健康診査のときに医師から受診を勧められたものの、Aさんは「自覚症状がないから大丈夫」といい、まだ受診していなかった。保健師はAさんに、このまま放置した場合の身体への影響を科学的な根拠に基づいて説明した。保健師の働きかけは、ヘルスビリーフモデルの主要な概念のどれか。
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正解3
正答
3.疾病の重大性の認識
この問題のポイント
ヘルスビリーフモデル(健康信念モデル)の主要概念を、保健師の具体的な働きかけに当てはめて見分ける問題です。鍵になるのは、保健師が「このまま放置した場合の身体への影響」を説明したという記述です。これは、病気を放置したときに起こる結果の深刻さを伝える働きかけにあたります。「自分がかかる可能性(罹患性)」と「かかった場合の結果の深刻さ(重大性)」を区別できるかが問われています。
解説
ヘルスビリーフモデルの構成
ヘルスビリーフモデルは、人が予防や受診などの保健行動をとるかどうかを、その人自身の「認識(信念)」から説明するモデルです。1950年代に米国の公衆衛生分野で、結核検診の受診行動を説明するために開発されました。その後、ローゼンストック、ベッカーらによって整理されています。主な要素は次の4つです。
- 罹患性の認識:自分がその病気にかかる可能性、またはすでにかかっている可能性をどの程度と感じているか
- 重大性の認識:その病気にかかったり放置したりすると、身体・生活・社会面でどれほど深刻な結果になると感じているか
- 有益性の認識:予防的行動をとると、どのような利益(リスクの低下、重症化の予防など)があると感じているか
- 障害の認識:行動をとるときの負担やマイナス面(費用、時間、手間、不安、苦痛など)をどう感じているか
罹患性と重大性の認識が合わさると「疾病の脅威」の認識になります。脅威を強く感じ、しかも有益性が障害を上回ると判断したときに、行動が起こりやすいと考えます。このほか、行動のきっかけ(健診結果の通知、医師の勧め、身近な人の発病、マスメディアなど)や、年齢・性別・知識などの修飾要因も行動に影響します。のちに自己効力感も要素として加えられました。
事例の整理と保健師の働きかけ
Aさんの検査値は、空腹時血糖140 mg/dL、HbA1c 6.8%です。日本糖尿病学会の診断基準では、空腹時血糖126 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上がそれぞれ「糖尿病型」とされます。同じ採血で両方が糖尿病型であれば、糖尿病と診断できます。特定健康診査の受診勧奨判定値(空腹時血糖126 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上)も上回っているため、医師が受診を勧めたのは当然の判断です。この事例での予防的行動とは、医療機関を受診して治療を始め、重症化を防ぐことです。
それでもAさんは「自覚症状がないから大丈夫」と考え、受診していません。糖尿病は初期にはほとんど症状がなく、口渇・多飲・多尿や体重減少が現れるのは高血糖がかなり進んでからです。Aさんは症状がないことを「問題がない」と受け取っており、病気が進んだときの深刻さを実感できていない状態です。
そこで保健師は、放置した場合の身体への影響を科学的根拠に基づいて説明しました。糖尿病を放置すると、次のような合併症が進みます。
- 細小血管障害(三大合併症):神経障害・網膜症・腎症。足の潰瘍・壊疽、視力障害、透析が必要な腎不全につながります。日本透析医学会の統計調査では、糖尿病性腎症が新規透析導入の原疾患として長年第1位を占めています。
- 大血管障害:心筋梗塞、脳梗塞、末梢動脈疾患のリスクが高まります。
このように「放置すると結果がどれほど深刻になるか」を伝えることは、重大性の認識への働きかけです。判断のコツは、働きかけの内容が次のどれにあたるかを見ることです。
- 病気の「起こりやすさ」を伝えている → 罹患性
- 病気が起きたときの「深刻さ」を伝えている → 重大性
- 行動の「利点」を伝えている → 有益性
- 行動の「負担」を扱っている → 障害
実践での活用
重大性を伝えて危機感を高めるだけでは、不安や恐怖が強まり、情報を避けたり否認したりして、かえって行動につながらないことがあります。実際の結果相談会では、次のような支援を組み合わせて、受診行動に結びつけます。
- 早期に治療を始めれば合併症を防げると伝える(有益性)
- 受診先や受診できる時間帯、費用の見通しを一緒に確認し、負担を減らす(障害の軽減)
- 後日、受診したかどうかを確認するフォローを行う
選択肢の確認
1.予防的行動に対する障害の認識:「受診する時間がとれない」「費用がかかる」「病気と言われるのが怖い」など、行動をとるときの負担や妨げをどう感じているかという概念です。保健師がこの概念に働きかける場合は、負担の内容を聞き取り、休日や夜間に受診できる医療機関を紹介するなど、障害を減らす支援になります。本問の説明は行動の負担ではなく、放置した場合の結果を扱っているため該当しません。
2.予防的行動の有益性の認識:受診や治療によって得られる利益をどう認識しているかという概念です。「今から治療を始めれば合併症を防げる」「血糖を管理すれば今の仕事や生活を続けられる」といった説明であれば、この概念への働きかけになります。本問は、行動をとった場合の利益ではなく、行動をとらずに放置した場合の悪影響を伝えているため、当てはまりません。
3.疾病の重大性の認識:正答。重大性の認識とは、病気にかかった場合やそれを放置した場合に、身体的・社会的にどれほど深刻な結果になるかについての認識です。糖尿病を放置すると、合併症によって失明、透析、下肢切断、心筋梗塞などにつながることを根拠に基づいて説明するのは、Aさんが病気の深刻さを実感できるよう働きかけることにあたります。
4.疾病の罹患性の認識:自分がその病気にかかる可能性、またはすでにかかっている可能性をどう認識しているかという概念です。「あなたの検査値は糖尿病が強く疑われる値です」「家族歴や肥満があると糖尿病になりやすい」といった、自分自身の問題として危険性を伝える説明がこれにあたります。本問は病気になる可能性ではなく、放置した結果の深刻さを伝えているため該当しません。どちらも「リスク」という言葉で語られやすく、選択肢3と混同しやすいので注意が必要です。
覚えるポイント
- ヘルスビリーフモデルの主要概念は4つです。罹患性の認識(かかりやすさ)、重大性の認識(かかったら深刻)、有益性の認識(行動すると得)、障害の認識(行動の負担)
- 罹患性+重大性=疾病の脅威の認識です。脅威が大きく、有益性が障害を上回ると行動が起こりやすくなります
- 行動のきっかけ(健診結果、医師の勧め、身近な人の発病、メディア)、修飾要因(年齢・性別・知識など)、自己効力感も構成要素として問われます
- 「放置するとどうなるか」「合併症」「重症化」は重大性、「あなたはなりやすい」「自分も該当する」は罹患性と見分けます
- 糖尿病型の基準は空腹時血糖126 mg/dL以上、HbA1c 6.5%以上です。同一採血で両方が該当すれば糖尿病と診断できます
- ほかの理論と混同しないようにします。行動変容ステージモデル(無関心期〜維持期)、自己効力感(バンデューラ)、プリシード・プロシードモデル(グリーン)など
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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