第108回
108PM022|第108回 保健師国家試験 過去問
Aさん(32歳、男性)は20歳からたばこを吸い続けていたが、妻の妊娠で両親学級に参加し、たばこによる胎児への影響が深刻であることを知り、これを機に禁煙しようと思った。Aさんは両親学級が終わった後、会場にいた保健師に「禁煙しようと思うのですが、良い方法はありますか」と尋ねた。Aさんの現在の行動変容ステージに最も適した保健師の提案はどれか。
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正解1
正答
1.「禁煙のための知識を学びませんか」
この問題のポイント
トランスセオレティカルモデル(行動変容ステージモデル)を使い、対象者の現在のステージを判定して、そのステージに合う働きかけを選ぶ問題です。Aさんは「禁煙しようと思った」と意思をもち、「良い方法はありますか」と方法を尋ねています。しかし、禁煙に向けた具体的な行動はまだ何も始めていません。この状態を関心期と捉え、行動を起こす前提となる知識を得るよう促す提案を選びます。
解説
行動変容ステージモデルの5段階
プロチャスカ(Prochaska)らのトランスセオレティカルモデルでは、行動変容を次の5つのステージで捉えます。期間の目安とあわせて覚えておきましょう。
- 無関心期(前熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりがない
- 関心期(熟考期):6か月以内に行動を変えるつもりがある
- 準備期:1か月以内に行動を変えるつもりがあり、何らかの小さな行動を始めている
- 実行期:行動を変えてから6か月未満
- 維持期:行動を変えてから6か月以上続いている
有効な働きかけ(変容プロセス)はステージによって異なります。
- 無関心期から関心期:意識の高揚(情報や知識を得て問題に気づく)、感情的体験、環境の再評価など、認知や感情への働きかけが中心です。
- 関心期から準備期:自己の再評価が加わります。
- 準備期:自己の解放(決意表明、開始日の設定)が中心です。
- 実行期・維持期:刺激統制、強化マネジメント(褒美)、行動置換、援助関係の活用など、行動そのものを支える働きかけが中心になります。
問題文の手がかり
- 20歳から12年間、喫煙を続けてきた。
- 両親学級で胎児への影響を知り、「これを機に禁煙しようと思った」。禁煙の意思は芽生えたばかりです。
- 「良い方法はありますか」と尋ねており、方法をまだ知らず、情報を求めています。
- 本数を減らす、禁煙開始日を決める、禁煙外来を調べるといった具体的な行動は、何も書かれていません。
Aさんには禁煙への関心と意思があります。一方で、準備期の条件である「すでに何らかの行動を起こしている」には当たりません。したがって関心期と判断します。
関心期に合う働きかけ
関心期は「やめたい」という気持ちと、「本当にやめられるだろうか」「やめるとつらいのでは」という不安が同居する時期です。情報がないままだと、迷ったまま先へ進めなくなりやすい段階です。
Aさんが求めているのは「良い方法」についての情報です。たとえば次のような知識を得ることが役立ちます。
- 禁煙の具体的な方法
- ニコチン離脱症状の現れ方と対処法
- 禁煙補助薬や禁煙外来の利用
- 禁煙による本人と家族への利益
こうした知識は「自分にもできそうだ」という見通しにつながり、開始日を決める準備期へ進む土台になります。よって選択肢1が最も適しています。
選択肢2と5は、禁煙を始めた後の行動を支える技法です。選択肢4は、禁煙という行動そのものをすぐ始めるよう促す提案です。いずれも関心期のAさんにとっては段階を先取りしています。ステージに合わない働きかけは、「まだそこまでの気持ちではない」という抵抗感や失敗体験を生み、かえって行動変容を遠ざけることがあります。
実践での意味
妊娠・出産は、本人や家族が健康行動を見直しやすい時期です。両親学級は、パートナーの禁煙を支援する好機になります。妊婦の受動喫煙は低出生体重の、出生後の家庭内での喫煙は乳幼児突然死症候群(SIDS)のリスク因子とされています。そのため、パートナーの禁煙は母子の健康に直結します。保健師は相談を受けたら、まず相手のステージを見極め、その人が今受け取れる支援から提供することが大切です。
選択肢の確認
1.「禁煙のための知識を学びませんか」:正答。禁煙の方法、離脱症状への対処、禁煙補助薬や禁煙外来など、行動に移す前提となる情報を得る働きかけで、変容プロセスの意識の高揚に当たります。方法を尋ねている関心期のAさんのニーズにそのまま応える提案です。迷いを整理し、「できそうだ」という見通しと決心を育てて、準備期へ進む後押しになります。
2.「喫煙所の近くに行かないようにしましょう」:喫煙のきっかけになる場所や物、状況を避ける「刺激統制」に当たります。禁煙を実際に始めた実行期や、それを続ける維持期に、再喫煙を防ぐために用いる技法です。灰皿やライターを片づける、飲酒の場を控えるなども同じ刺激統制です。まだ禁煙を始めていないAさんには時期が早く、禁煙開始後の支援として提案するのが適切です。
3.「禁煙に成功した人の経験を聞いてみませんか」:他者の成功を見聞きする代理体験(モデリング)によって「自分にもできる」という自己効力感を高め、実行に向けた決意を後押しする働きかけです。主に準備期に有効な支援と整理されます。Aさんが今求めているのは禁煙の方法そのものの情報であり、まず知識を得る提案のほうがこの時点のAさんに適しています。
4.「まず今日一日たばこを吸わずに過ごしてみましょう」:禁煙という目標行動そのものを、その日から始めるよう促す提案です。具体的な実行に踏み出す段階(準備期から実行期への移行)の働きかけに当たります。方法も分からず開始日も決めていない関心期のAさんに求めると、離脱症状への備えがないまま失敗しやすくなります。その結果、自己効力感を下げるおそれがあります。
5.「禁煙できた時の自分へのご褒美を考えてはどうでしょう」:目標を達成したときに自分へ報酬を与える「強化マネジメント(褒美)」で、禁煙を始めた後の行動を継続・定着させる実行期・維持期に用いる技法です。行動を始めてから「続けられた自分」をほめることに意味があります。そのため、まだ禁煙を始めていない段階では効果を発揮しにくい提案です。
覚えるポイント
- 行動変容ステージの期間の目安:無関心期(6か月以内に変える気なし)、関心期(6か月以内に変える気あり)、準備期(1か月以内に変える気あり+小さな行動を開始)、実行期(開始後6か月未満)、維持期(6か月以上継続)。
- 「やろうと思う」「方法はありますか」だけで具体的な行動がなければ関心期、「開始日を決めた」「本数を減らし始めた」なら準備期と判定します。
- 無関心期・関心期では、意識の高揚、感情的体験、環境の再評価、自己の再評価など、認知や感情への働きかけが中心です。準備期では自己の解放(決意表明・開始日の設定)が中心です。
- 実行期・維持期では、刺激統制(きっかけを避ける)、強化マネジメント(褒美)、行動置換(代わりの行動)、援助関係(周囲の支援)など、行動への働きかけが中心です。
- ステージを先取りした働きかけは、失敗体験や抵抗感を生みやすくなります。まず現在のステージを見極め、一段先へ進むための支援を選びます。
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