第109回
109PM020|第109回 保健師国家試験 過去問
A市では熱中症の健康被害が年々深刻になっている。A市で熱中症による死者の減少を目指すための熱中症対策計画を策定することになり、関係部署の役割分担を整理した。環境衛生行政部門の役割で適切なのはどれか。
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正解1
正答
1.熱中症の危険性が高い気象情報の提供体制の構築
この問題のポイント
熱中症対策には複数の行政分野が関わります。この問題では、各取り組みがどの分野の所管かを見分けることが求められます。鍵になるのは、取り組みの対象が「地域の生活環境や気象」「職場の労働者」「学校の児童生徒」「住民一人ひとりの健康行動」のどれかという点です。熱中症の危険を知らせる気象情報は、国でも環境行政(環境省)が気象庁とともに担っていることを知っていれば、選択肢1を選べます。
解説
問題文の手がかり
「熱中症による死者の減少を目指す」とあるので、市全体の住民を対象に、危険な暑さにさらされることを減らす計画だと読み取れます。「関係部署の役割分担を整理」とあることから、分野をまたぐ計画の中で各部門の所管を問う問題だとわかります。問われているのは「環境衛生行政部門」なので、生活環境、気象、環境保全を扱う部門の役割を選びます。
衛生行政の分野と所管
衛生行政は、対象とする場と根拠となる法律によって次のように分かれます。
- 一般衛生行政:家庭や地域社会で暮らす住民が対象です。厚生労働省から都道府県・保健所、市町村へとつながります。健康づくり・母子保健・感染症などの保健衛生と、生活環境に関わる環境衛生を含みます。
- 労働衛生行政:職場で働く人が対象です。厚生労働省から都道府県労働局、労働基準監督署へとつながる国の系統で、根拠法は労働安全衛生法です。
- 学校保健行政:学校の児童生徒と職員が対象です。文部科学省から教育委員会、学校へとつながり、根拠法は学校保健安全法です。
- 環境保全行政:大気・水質などの環境保全や気候変動への対応を扱います。環境省から自治体の環境部門へとつながります。
熱中症対策と環境行政
熱中症の発生は、気温・湿度・日射などの環境条件に強く左右されます。そのため国では環境省が、気温・湿度・輻射熱を取り入れた指標である暑さ指数(WBGT)を提供してきました。2021年からは環境省と気象庁が共同で熱中症警戒アラートを全国で運用しており、翌日または当日の暑さ指数が33以上と予測されると発表されます。
市の環境部門が担うのは、こうした情報を住民へ確実に届ける仕組みを整えることです。具体的には、防災行政無線、メール配信、SNS、公共施設での掲示などを使います。高齢者の見守りに関わる機関へ連絡する経路をつくることも含まれます。人口動態統計では熱中症による死亡の大半を高齢者が占めています。暑さを自覚しにくい人にも情報が届く体制は、死亡を減らす土台になります。
出題当時、熱中症警戒アラートは法律に基づかない運用でした。現在は2023年の気候変動適応法改正(2024年4月全面施行)により、次の仕組みが加わっています。
- 熱中症警戒アラートが熱中症警戒情報として法に位置づけられました。
- より深刻な暑さに備えて熱中症特別警戒情報が新設されました。都道府県内のすべての観測地点で暑さ指数35が予測される場合に発表されます。
- 市町村長が指定暑熱避難施設(クーリングシェルター)を指定できるようになりました。
これにより、環境行政が熱中症対策の要であることがより明確になりました。
計画の中での役割分担
熱中症による死亡を減らすには、部門ごとの分担と連携が欠かせません。
- 環境部門:情報提供の仕組みづくり
- 保健衛生部門:健康教育や重症化しやすい人への保健指導
- 福祉部門:独居高齢者などの見守り
- 教育委員会:学校での対策
- 事業者と労働基準監督署:職場での対策
保健師は、救急搬送や死亡の状況を地域診断で分析し、どこに対策が届いていないかを関係部署と共有する立場にあります。
選択肢の確認
1.熱中症の危険性が高い気象情報の提供体制の構築:正答。気温や湿度などの気象条件は生活環境そのものなので、危険な暑さの情報を住民に届ける仕組みづくりは環境部門の役割です。国では環境省が気象庁と熱中症警戒アラートを運用しており、市はこれを防災行政無線やメール配信などで確実に伝える体制を整えます。出題当時は法定前の運用でしたが、現在は改正気候変動適応法により熱中症警戒情報・熱中症特別警戒情報として位置づけられ、環境行政の所管がいっそう明確になっています。
2.高温下での労働者の作業環境の管理:職場で働く人の健康確保は労働衛生行政の領域です。労働安全衛生法に基づき、事業者が次の管理を行います。作業環境管理は暑さ指数の測定、遮熱、冷房・送風設備の整備です。作業管理は休憩、作業時間の短縮、暑熱順化です。これに健康管理が加わります。監督するのは国の機関である都道府県労働局と労働基準監督署で、市の環境部門が民間事業所の作業環境を管理する立場にはありません。なお現在は、2025年6月施行の労働安全衛生規則改正により、一定の暑熱環境での作業について、熱中症の早期発見と重篤化防止の体制整備・手順作成・周知が事業者に義務付けられています。
3.学校の教室の湿度管理:教室の環境を保つのは学校保健行政の領域です。学校保健安全法に基づく学校環境衛生基準では、教室の温度は18℃以上28℃以下、相対湿度は30%以上80%以下が望ましいとされています。学校の設置者と校長がこれに沿って環境を維持し、学校薬剤師が検査や指導・助言に関わります。市では教育委員会の所管であり、環境衛生行政部門の役割ではありません。「湿度」「環境」という語から環境衛生と取り違えやすいので注意します。
4.熱中症予防の健康教育:住民一人ひとりの知識や行動に働きかける健康教育は、保健衛生部門(保健センターなど)の役割で、保健師が中心となって担います。伝える内容は、水分・塩分の補給、冷房の適切な使用、暑い時間帯の外出を避けることなどです。高齢者、乳幼児の保護者、持病のある人など重症化しやすい人を優先します。環境部門も一般的な普及啓発は行いますが、対象者の特性に合わせて健康行動を促す健康教育は保健事業に位置づけられます。
覚えるポイント
- 衛生行政の系統は4つに分けて覚えます。一般衛生は厚生労働省→都道府県・保健所→市町村です。労働衛生は厚生労働省→都道府県労働局→労働基準監督署です。学校保健は文部科学省→教育委員会→学校です。環境保全は環境省→自治体の環境部門です。
- 所管は「誰を対象に、どこで、何法に基づいて行うか」で見分けます。職場は労働安全衛生法、学校は学校保健安全法、住民の健康教育・保健指導は保健衛生部門です。
- 熱中症の危険を知らせる情報は環境行政の役割です。暑さ指数(WBGT)を使い、熱中症警戒アラートは暑さ指数33以上の予測で環境省と気象庁が発表します。現在は熱中症特別警戒情報(暑さ指数35)とクーリングシェルター(市町村長が指定)も加わっています。
- 労働衛生の3管理は作業環境管理・作業管理・健康管理です。暑熱対策では、設備と測定が作業環境管理、休憩と暑熱順化が作業管理にあたります。
- 学校環境衛生基準では、教室の温度は18〜28℃、相対湿度は30〜80%が望ましいとされます。検査と助言には学校薬剤師が関わります。
掲載内容は受験学習用に編集しています。正式な正答・採点上の取扱いは、各試験実施機関の発表を優先してください。情報の確認方法と訂正窓口は編集方針に掲載しています。本サービスは診断・治療・臨床判断を目的とするものではありません。
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